書庫(73)

時代小説・歴史(15)






■戦雲の夢
著:司馬遼太郎
版:講談社文庫
価:733円
□読書ノート
引:軍議の席に盛親も出ていたが、木津川尻の模様が急報されたときに、さすがに明石全登は顔色をかえた。腰をうかそうとしたが、その直後にはいった報らせでは、すでに陥ちたという。全登は立ちかけた腰をふたたびしずめ、「すじはあらそえぬ。さすがは盗賊あがりの蜂須賀勢ではある。空屋敷を小ざかしゅう狙いおったわ」とあかるく笑ったため、一座の暗い表情が奇妙に晴れた。
感:長曽我部盛親を主人公にした関が原〜大阪の陣までの小説です。いかに生きるか、いかに死ぬかを生涯悩み続けた彼の弱さに親しみが湧きました。そして旧臣達の長曽我部家再興の希望になってしまったことが、主人公がいまひとつ真田幸村のような英雄豪傑になりきれなかった原因なのだとも思えます。筋もよくて才能もあるのにあと一歩なにかが足りなかった人。逆にそういう人物でも小説にできてしまう司馬先生は凄いと思いました。
引:盛親の気付いたことは、自分がどういう場合にも女を愛しきったことがない、ということである。どんな女に対しても盛親は煮えきったことがなかった。(中略)
(女にすれば、おれがこの態度ではどんな女でもおれを愛しきるわけにはゆくまい)(中略)
(あの女のみ攻めるわけにはいかないことだ)








■忍者群像
著:池波正太郎
版:文春文庫
価:552円
□読書ノート
引:(主膳之助ほどの男に討たれたのなら、父も満足だったろう)なのである。甲賀の忍びと知りつつ、堂々と胸をひらき、むすめまであたえた度量のひろさに、寅松は胸をうたれたのだ。主膳之助のためになら死んでもよい。ということは、これほどの武士を腰ぬけの北条氏政なぞと心中させるべきではない、との思案につながるのである。
感:歴史の陰で暗闘する忍者達の生き様を描いた短編集です。忍者にとって仲間を裏切る事は、危険なだけでなく不名誉でな事でもあります。それでも裏切る決心をするのは、相手に相応の魅力がある事と自分にそれを判断できる価値観・信念があるという事を学びました。
薦:戦国時代が好きな人、男の強さについて興味がある人





■これだけは知っておきたい昭和史の基礎の基礎
著:保阪 正康
版:だいわ文庫
価:648円
□読書ノート
引:昭和12年1月21日。政友会の浜田国松は陸軍を激しく批判した。2・26事件のあと、広田弘毅内閣は陸軍に押され気味で、その政策はしだいに議会政治をつぶしていこうとする狙いに満ちていった。浜田はこれを怒ったのである。「軍部は、近年、自ら誇称して我国政治の推進は我らにあり、乃公出でずんば、蒼生を如何せんの概がある。5・15事件然り、2・26事件然り、軍部の一角よりときどき放送せられる独裁政治意見然り」「独裁強化の政治イデオロギーは、常に軍の底にあり、時に文武恪遵の堤防を破壊せんとする危険あることは、国民のひとしくひんしゅくするところである」―当時はこれだけのことをいうのも命がけであった。これをきいた寺内寿一陸相は「これは軍人を侮辱するものだ」といって浜田に取り消すようにいう。しかし浜田は応じない。
感:2008年夏頃から僕は、日本の防衛に危機感を持ちはじめました。その流れで自衛隊に興味を持ち、「どんな装備を持っているのか」を調べています。日本の国は日本で守るべきだと思っているからです。それはそうと、自衛隊を考えるならば過去の太平洋戦争に遡らなければ今を理解できないと思うようになりました。そこでこの本を買ったのです。
史実を時系列に書いてくれていますので分りやすいです。そして著者の主張は一貫して「太平洋戦争は誤りであった」です。しかし僕は太平洋戦争の正否はこの本一冊では分らないと思っています。もっと情報を増やして昭和に踏み込んでみようと思っています。





■大盗禅師
著:司馬遼太郎
版:文春文庫
価:648円
□読書ノート
引:この結社を好んでいるわけではないのだ。言わでものことだが、仙八は世間の他の浪人と同様、できれば歴とした大名に抱えられて身分の保障と精神の安定を得たい。たとえ小禄でも禄の多寡がなんであろう。人間の欲するのは禄ではなくて属したいということなのである。それは、今の徳川政策では不可能にちかい。それどころか、浪人も、この士農工商でできあがっているこの世間からのけものにしようとしている。浪人はゆくところがない。
感:あぶれ者の仙八が日本と中国で大暴れする爽快な物語でした。小物だった仙八が、物語が進むにつれて由比小雪や鄭成功のような大物と対等に渡り合うようなキーマンに変わっていく様子は、結果を出せば人間関係は簡単に変えられるのだと夢を与えてくれました。




■風神の門(上)
著:司馬遼太郎
版:講談社文庫
価:667円
□読書ノート
引:「そうであろう。そうでなくては、猿飛佐助ではない。それほどの技術をまなぶのに、われわれは、三歳のときから、死ぬようなくるしみを重ねて、こんにち、猿飛といわれ、霧隠といわれるほどの者になった。これほどの修行をたれのためにした。主人の犬馬になるためか。ではあるまい。おのれのためじゃ。おのれが、たれの奴婢になるためではなく、技術だけでのびのびと世をひろやかに生きていくためであった。とすれば猿飛佐助ほどの忍者が、ただのくず侍と同様、忠義、恩義などと念仏をとなえるのは妙ではないか」
感:世間に名を知られた数少ない忍者、それが霧隠才蔵です。「全国の伊賀者から尊敬され慕われている上、美丈夫でまだ若い、腕は超一流の一匹狼。女性に優しい」というのは、忍者好きの僕から見れば憧れそのものです。その才蔵が自分の人生をどのように生きるかで悩みつつ、周囲の人間に強烈な影響を与えている様子が爽快でした。





■風神の門(下)
著:司馬遼太郎
版:講談社文庫
価:629円
□読書ノート
引:「わしは、大坂の真田左衛門佐幸村どのの手にて霧隠才蔵という者じゃ。夜中ながら、大御所にあいさつすることがあって参上した。ただいまからおとなしゅう下城するゆえ、門をあけよ」「曲者」槍ぶすまが才蔵をかこんだとき、大篝火が轟然と火をふいてくだけた。「あっ」才蔵の仕掛けた火術である。白煙があたりに満ち、才蔵の姿がみえなくなった。煙のなかを具足の群れが駈けまわった。そのとき星空から声がふってきた、という。「また、来るさ」たしかに、そうきこえた。「いや、不敵にも今様を唄うていたわ」という者もあった。「まさか」「伊賀者のくせに傾いた(伊達な)ことをする男じゃ」真田幸村、霧隠才蔵という名が、変幻自在の能力をもつ名として徳川の全軍につたわったのは、この駿府田中城の夜からであったらしい。
感:自己顕示欲の強い才蔵は「霧隠才蔵」という名を堂々と名乗ります。司馬先生の小説に登場する忍者は、名を隠さずに寧ろ宣伝するようなところがあります。組織に埋没されない忍者「才蔵」は僕のようなサラリーマンに夢を与えてくれる存在なのです。






■忍法八犬伝
著:山田風太郎
版:新潮文庫
価:552円
□読書ノート
引:「やるか、伊賀のくノ一」そういうと犬江親兵衛は身を横なりに、どうと土蔵の下に横たわったのだ。騒然と跫音が迫って、炎の向こうに十数人の伊賀者がむれさわぐのが見えた。しかし、炎はかえって、この場合、親兵衛をめぐる盾の環となった。
感:僕の中では忍法帖シリーズ最高傑作です。八犬士のキャラクターが際立っています。その中でも犬塚信乃が気に入りました。原作の南総里見八犬伝の犬塚信乃も良いですが、こちらの狡賢くも美しい信乃は忍法帳シリーズのスターだと思います。







■くノ一忍法帖
著:山田風太郎
版:新潮文庫
価:571円
□読書ノート
引:千姫を大阪城の炎の中から救い出す直前に、「姫をたすけてくれた者に、姫をやる」という家康の言葉をたしかにきいた。その約束にうごかされて猛火にとびこんでいったのではないが、面をやいた炎と、背をやいた姫のからだの感覚が、出羽守を煩悩の虜にかえてしまった。それなのに、道中、千姫は終始さげすみとにくしみの眼で彼をながめ、「わたしは豊臣家のおんな」と事あるごとに昂然と口ばしるのが、出羽守に、余人のように寛大にききながす余裕を失わせた。
感:5人の胎児を殺させないように戦うくノ一達は可憐ですが、敵も強力でやや残酷な感じがします。山田風太郎氏の文章は「むちゃくちゃな事を科学的に」表現しているところでちょっとした笑いがあります。そうはいいながらも終盤に登場する徳川頼宣の長台詞は見事でした。老獪な家康を突き刺すようなこの台詞は、読者や著者の気持ちを代弁しているようで爽快でした。




■覇王の家 (上)
著:司馬遼太郎
版:新潮文庫
価:552円
□読書ノート
引:−勝ってばかりいて、一度も負けたことがないという人間は、どこかよろしくない。
と家康は晩年、語っている。
「自分は三方ヶ原で大負けに負けたが、この負けがその後どれほど薬になったかわからない」
感:家康主人公の小説です。青年期の家康を物語るエピソードはいつか成功したいと願う僕には希望に満ち溢れています。ただ、長男を殺されたところは哀しさ悔しさが溢れてきます。




■覇王の家 (下)
著:司馬遼太郎
版:新潮文庫
価:552円
□読書ノート
引:「正則については、かれは豊臣家の縁者ながら関が原でわが方に味方し、そのために豊臣筋目の諸大名も”正則が徳川方につくほどならばわれわれも従わん”という気分をおこさせしめ、しかも戦場では手をくだいてかの男は戦った。正則自身がつねづね申すようにわしにはかの男に借りがあり、かれを五十万石に封じたのもあの頃としては相応なことであった。しかしながら恩借はわし一代でよい。(以下略)」
感:老年期のヤクザな性格が出てくる下巻です。青年期・壮年期に貯めた「律儀者という貯金」を一気に使って勝負に出た晩年だったと思います。老年期に守りに入らず攻めているところが凄い人だと思います。



■賊将
著:池波正太郎
版:角川文庫
価:700円
□読書ノート
引:果たして、日本は間もなく、朝鮮をはじめ支那、ロシアとの問題を、日清日露の両戦争において厭でも解決しなくてはならなかったのである。しかし、10年20年後のそのときでも、日本は外国の圧迫と戦争の苦しさをやっと切り抜け得たのであるから、明治10年の征韓論を「まだ時期が早い」と押し止めた大久保利通他の政府高官達の西郷に対する必死の活動もまた賞すべきであろう。
感:敢えて「賊将」という称号を付けた桐野利秋に対して、著者は「賊」として扱っていません。日本を想う偉大な英雄の生き様として描いています。その描き方の熱さに心臓が震えました。



■タイムスリップ戦国時代
著:鯨 統一郎
版:講談社
価:800円
□読書ノート
引:北条早雲は中肉中背の、何の変哲もなさそうに見える、六十を少し越えたばかりの初老の男だった。気さくな雰囲気で、家来たちにもよく声をかけ、野心などなさそうに見える。だが・・・。早雲の胸は、野心で燃えたぎっていた。
感:スカッとする空想小説で小ネタが多かったです。本能寺には思わず噴出しました。軽いお笑い小説として読むなら面白いです。



■敗者たちの幕末維新
著:武光 誠
版:PHP文庫
価:514円
□読書ノート
引:「たとえ朝命でも、拙者は承服できませぬ。大恩ある主君を敵方の藩に監禁させるなど。このお話を認めれば、不肖山岡は後世まで不忠者とされるでございましょう。どうかお考え下され。島津候が今日の慶喜の立場になられたとすれば、先生はこのような命令を甘受なされますか」
感:13人の幕府側人物の話です。日本を外国の侵略から守るため、徳川慶喜や勝海舟は官軍と徳川家の争いを起こさせないように尽力しました。山岡鉄舟・大久保一翁は和平交渉で江戸市民を守る働きをしました。主戦派などから多くの批判にさらされたでしょうが、彼らの努力で日本は明治後に強くなれたのだと思います。幕末物を裏から読めるお得な本です。




■大坂侍
著:司馬 遼太郎
版:講談社文庫
価:590円
□読書ノート
引:その翌日から、佐伯主税は、毎日、奴留湯佐平次の身辺をつけねらった。佐平次も容易に油断をせず、どこに泊まるのか、堂島の家に帰ってくることも少なくなった。あるとき、心斎橋の袂で佐平次の姿を発見し、宗右衛門町までつけて、細い路次の入り口にある小さな茶屋の格子を開けようとしたとき、主税は兎のように駆けだして、「おのれ仇!」腰車を払おうとした。ところが、佐平次はスイと手許に飛びこみ、手刀で主税の左手を打って、刀をとりあげ、「これは物騒やさかい、預かっとくわ」言うなり、主税の背をポンと押して、茶屋の格子の中に押し込み、「まあ酒でも飲んで行き」と自分だけはサッサと町角へ消えてしまった。
感:僕は大阪出身ですので宗右衛門町や心斎橋の位置関係はよく分かります。そういう地元小説として嬉しいです。江戸を舞台にした時代小説は多いですが、東京の地理を理解していないと面白さも半減すると思います。この小説を読んで時代小説は地理知識も重要と思うようになりました。


■開国ニッポン
著:清水 義範
版:集英社文庫
価:580円
□読書ノート
引:「リーフデ号の乗組員の中に、インドや西アジアへの航海をしたことのある者がいて、その男にきいたことがあります。西アジアやインドでは、巧妙な政策によって宗教をコントロールしているのだとか」「ほう」と家康の顔に興味の色が浮かぶ。その隣で、少年家光も真剣な表情で話に聞き入っていた。
感:「もし日本が江戸初期から開国していたなら・・・」をシミュレーションしてくれる小説です。しかも知的なギャグありなのでたまに吹き出してしまいました。僕の好きな「幕末」までちゃんと用意されているのも嬉しいところです。